稼働時間が長くなりがち

まず印刷業界の企業がブラック企業となりがちな理由は、現在の雑誌や新聞含めた出版物全般が非常に量が多く、またサイクルも短いことにあります。発注者のニーズに合うロットの印刷物を高速で用意する必要があるため、印刷会社の工場はとても高頻度での稼働が要求されます。

工場が高頻度で稼働するとなれば、当然そこで働く労働者は長時間労働を強いられることになります。もちろん理想を言えば多交代制にすることで一人一人の負担を減らすことも考えられるのですが、クライアントは現状多交代にして労働者を増やすことによる人件費の増額を支払ってくれるわけではありません。

従って、結局必要最低限の人員を長い労働時間でカバーする産業構造が確立してしまうというわけです。

また、後段にも関連しますが、現在はマスコミや出版物、広告等のIT化が進捗しております。これにたいし紙媒体は斜陽化するわけですが、ただ紙がなくなっていくわけにもいかず、印刷業界は可能な限りITに食いつこうとします。

するとどうなるかというと、ただでさえ早かった印刷サイクルが、より素早さを要求される、ITの方が得意とするようなニーズを極力印刷業界が拾おうとしてしまいます。その際もそのスピーディーな作業は労働者の無理な作業や労働時間によって担保されていることは言うまでもありません。このように印刷業界はまず、労働者に長時間労働を強いる業界構造となっています。

過当競争になりやすく、利益還元を期待しにくい

二点目ですが、印刷業界というのはクライアントの求める印刷物を決められた納期までに決められたロットで印刷し納品するのが本分です。このさい、印刷するもののコンテンツやデザインは状況に応じて大手であれば一定程度印刷会社もはいるとはいえ、一義的にはこれはマスコミや広告会社の領域で、印刷会社はあくまで印刷することがその本分となります。

この点マスコミや広告代理店と比較してクリエイティビティの発揮余地がないといえます。この点で魅力にかけるという見方もありますがそれは人それぞれとして、問題点は「印刷会社の差別化が難しい」という別の問題を孕むことになります。

要はしっかりした機械を導入すればあまり仕事ぶりに差がつかない仕事ということになります。この点は二つの方向性から企業をブラック化します。一つは差別化が難しいため企業は過当競争に走りがちになるということです。つまり利益を下げて、価格をギリギリまで下げるという経営戦略がとられがちです。その際犠牲になるのはもちろん人件費となり、結果として労働者の賃金に下方圧力がかかります。

もう一点ですが、このように高速、低コストの仕事をこなしていくうえで、大事なものは何になるでしょうか?残念ながらそれ人ではなく「機械」ということになります。そうすると印刷業界は「機械」には投資を余念なく行い、「少しでも早く、きれいに、安く」印刷物を作り上げようとします。一方で人に高い賃金を払っても作業スピードの飛躍的向上に寄与しないということであれば、人材にはあまりコストをかけないという判断になります。

以上両面から、印刷業界は人件費をあまり重視しない、重視できない業界となります。そうなれば当然労働者の待遇は切り詰められることになります。前章の内容も相まって、印刷業界は労働時間が長くなりがちで、賃金は安くなりがちな業界といえ、ブラック企業が増えやすい背景となっていると言えます。

斜陽産業であり、ここから労働環境の改善が見込みにくい

最後は、この業界の将来にかかるポイントとなります。印刷業界は前章のようにITに押されながらも、構造上の不利を抱えながらもなんとかキャッチアップして今に至っております。

これがもし今後改善の余地があるのならいいのですが、現実は全く逆で出版物や文書類のIT化、データ化はどんどん進んでいくため、印刷業界の業務は今後着々と先細りせざるを得ないと考えられます。いきのこるのはIT関連のビジネスへの多角化を成功したり、出版物自体のコンテンツやデザインの作成など「印刷業界本業ではない」業務が可能となっている企業に限られていきます。つまり、印刷業界自体は残念ながら斜陽産業と言わざるをえないのです。

斜陽産業であれば業界全体として利益は先細りとなり萎んでいくパイを各社で奪い合っていくわけですから、今後なおさらに労働者へ支払うコスト余力は小さくなっていきます。労働者に支払う賃金自体を先細りさせていくか、あるいは、多かれ少なかれリストラを実施しなければならない局面となります。

労働者にたいする一層の待遇の切り詰めか、あるいは、労働者の、労働者に起因しない大幅な人員削減か、旧態依然の印刷会社がどちらを選択するかは企業次第ですが、いずれにしてもこうした切り詰め、リストラが「ブラック的」であると言われる企業が出てくる可能性は充分あります。