ブラック企業かそうでないかを判断する材料はさまざまあります。給与水準や福利厚生、離職や解雇率の高さ、職場の雰囲気など、軸として様々でもありますし、人によって重視するポイントがバラバラという特徴も併せ持っています。
さて、そのなかの尺度として比較的メジャーなものに「残業時間」があります。残業が多すぎればブラックという感覚は誰しもある程度は抱いていると思いますが、どれくらいの残業ならばブラックか、は人によって基準がことなるものです。今回は残業量とブラック企業の関連性について説明します。

 

ブラック企業と言えるための残業時間の基準はあるのか?

日本ではブラック企業が多くあると言われていますが、ブラック企業という言葉自体が法律的に裏付けされた言葉ではないので、定義が難しいという問題があります。

そして、ブラック企業というのは残業が多い会社という意味で言われることもあります。
つまり、残業を頻繁にさせるとか、その残業時間が長すぎるという場合にはブラック企業という表現が使われることがあるのです。

しかし、その基準も明確ではなく、個々人が主観でブラック企業か?どうかを判断しているというのが現状でしょう。

ブラック企業に当たるか?どうかの判断は主観にならざるを得ない面もありますが、法律を基準に判断ができないわけではありません。

法律である程度の労働時間の制限はついているので、そこからブラック企業に該当すると思われる残業時間を割り出すということができるのです。

日本では法定労働時間は1日あたり8時間、週で40時間までというのが原則ですが、この原則は例外を認めています。

つまり、1日8時間、週に40時間を超えて労働させることが法的にはOKなので、いわゆる残業が生じることは法律上OKとなります。

残業が存在するだけでは違法とは言えないので、ブラック企業とも言えないと思いますが、その残業は法的にはどこまで許されているのでしょうか?

それを解決するための制度が36協定と呼ばれているものになります。

 

労働基準法上、残業自体が「異例対応」

まず、一つ重要な事実ですが、労働基準法は本来というか、建前上は残業を認めておりません。本来の労働時間は 1日8時間かつ週40時間と定められています。したがってこの後説明する手続きをもし踏んでいない企業の場合は残業自体が法令違反となります。

実際には残業を許可する「特例」があり、多くの企業はこの「特例」を適用することで残業を許可されています。それが「36協定」というもので、これを所轄官庁に届出ることで、一定時間の残業が認められます。
その一定時間ですが、期間ごとに細かな定めがあるのですが、一般的な労働者で 3ヵ月120時間、1年間360時間となります。従って36協定のみを結んでいる場合は、これを上回る残業をさせていれば法令違反となります。あくまで後続の論点を無視した一般論にはなりますが、36協定に充分収まっている企業が、労働時間だけでブラック企業の扱いを受けるリスクは低いと考えられます。

問題は36協定の範囲を超えたという判断をどうやってするか?という部分で、違法と言える残業時間は年間に換算すると1日あたり1時間強ですが、1週間で換算すると1日あたり3時間くらいまでOKになります。
土日が休みであるということを踏まえると、1日あたり3時間までの残業であれば1週間までは法律の範囲内ということになりますが、その3時間ペースを毎回続けていると、年間360時間という範囲を超えてしまうことになります。

ただ、1週間のうち3日だけ5時間残業をさせ、残り2日は残業なしみたいな状況でも可能という解釈になるので、1日あたりの残業時間を使うと、日によって残業時間がバラバラの場合にはブラック企業と判断できるか?ということに関して、かなり難しいということになります。

そうなると、年間360時間までという基準を使うのが分かりやすいかもしれません。
日によって残業時間が異なる会社が多いと思うのですが、年間の勤務した日の残業時間の1日あたりの平均を出して、2時間を超えていたら違法である可能性が高まります。

年間で360時間までOKということは休みの日を除くと、1日あたり1時間を超えていてもまだ違法ではない可能性があります。

しかし、2時間を超えたらさすがに違法であると言って間違いないと思うので、1年間の残業時間から1日あたりの平均の残業時間を出して、それで判断するというのはおすすめであると言えます。

さて、これ以上は残業させられないのかというと、最後に「特別条項」というものがあり、一定の条件のもと「一時的に」残業上限を拡大させられるというものです。一時的にとはなっていますが、忙しい企業ではこれを繰り返し適用することで、実質的に上限を引き上げています。

実はこのルールでの「究極の上限」はまだ存在せず、残業代を払いしかるべき措置をとれば青天井です。じゃあこの手順を守ればいくら働かせてもブラック企業と言われずにすむのかというと、そうではありません。まず、例えこのルールを守っていたとしても、過労によるトラブルが発生した企業には、実際にブラック企業と認知されている企業もあります。あくまで法律を守るのは最低限度の対応でしかないのです。

また、2017年3月に「働き方改革」のなかで上限規制を設けることを決定しました。それにより「年間720時間」の上限と、2~6ヵ月の平均80時間以内、1ヵ月では100時間未満を基準が新たに設定されます。これは2019年4月から施行予定ですが、現時点ですでにこの上限以内に抑える動きが見られるようになっていますので、現時点でこの上限を破る企業は事実上ブラック企業な扱いを受けることになるかと思います。

ここまでをまとめると、法令の観点からは、36協定がなければ残業自体が違反、36協定だけなら年間360時間以内、上限規制後は年間720時間以内であることが求められます。各々の尺度は様々とはいえ、法令違反の企業がブラック企業であることはほとんどの人にとって納得できることかと思いますので、まずはこれらを超越することは「ブラック企業とみなされうる基準」となります。特に最後の上限である年間720時間を超過する企業については「ブラックである」とみなされる可能性が非常に高いです。

変形労働時間制というレアなケースはちょっとややこしい

これは多くの会社には当てはまらないレアなケースになると思いますが、変動労働時間制を敷いていると、そもそも残業の扱いがややこしくなります。

変動労働時間制というのは、月単位や年単位を決めたうえで、その単位の期間内における平均の労働時間が8時間に収まっているならば、法定労働時間よりも1日当たりの労働時間が長くなっても良いというものです。
業界によっては特定の時期がかなり忙しいが、それ以外の時期は暇であるという場合があり、そういう会社の場合にはこの変動労働時間制を採用します。

この制度を採用していると、特定の期間内における労働時間について、1日あたり8時間を超えていても残業扱いになりません。

例えば、1日10時間働いた日があったとしても、その日を含めて特定の期間内の労働時間をトータルで見たとき、1日あたり8時間を超えていなければ残業扱いにならないということになるので、8時間を超えて労働をしても残業代が出ないということが起きるのです。

残業代が出ないというのはブラック企業にあたると考える人が多いと思いますが、変動労働時間制のもとでは合法になりますから、ここは知っておかないといけません。

特定の状況下では残業時間がどれだけか?以前に、8時間を超えて労働していても残業扱いにならないことがあるのでちょっとややこしいですけど、この変動労働時間制も結局は36協定の範囲を超えることはできないので、変動労働時間制を敷いている会社で働いている人も、残業時間を基準にしてブラック企業にあたるか?どうかを考えるときには36協定の基準を使うと良いとなるのです。

36協定の基準を使い、年間で法定労働時間と比較したとき1日あたり平均で2時間以上の余分な労働時間があったとしたら、それは違法であると言えるので、ブラック企業に該当すると言って良いでしょう

残業時間が法令を下回っていてもブラック企業との評価をされるリスクはある

では、この各ルールを守っていれば、それだけで労働時間の観点からはブラック企業と見なされないかというとそうともいいきれません。
ブラック企業というのはなにか規制があって、それを越えればアウト、越えなければセーフというものではなく、人々の評価によって形成されるものです。

法令違反は「人々が最もブラックな印象を与えるポイント」なのであって、法令違反していないことがブラック企業ではない証明にはなりません。むしろ、世間で問題になるような長時間労働の企業についても、特に大企業では前述の法令はギリギリながらも守られていることも多いです。
この法律を守っていてもブラック企業とみなされる基準については少し複雑になってくるので、次の章で詳しく説明します。

人々がブラック企業と評価する残業時間のポイント

法令以外の「人々がブラック企業と評価する」残業時間は究極的には人それぞれです。残業自体がNGというひともいれば、月80時間くらいまで一時的ならOKという人もいます。
その「程度」は究極的には人それぞれですが、人々がどのような尺度をもとに自分がブラック企業だと思わない「残業許容度」を考えているのか説明します。

極力多くの人々の「残業許容度」内にあれば、ブラック企業とみなされるリスクはそれだけ下がるというわけです。
まず一番は業種です。人々はある程度各業種について「この業種は残業が長い、短い」という印象を持っています。一般メーカーは残業が少ない、飲食店や証券会社は長い、といったようにです。それぞれの業種にはある程度その業種に見合った「残業許容度」を持つ人が仕事につきます。従って残業が長い印象がある業種は多少残業が多くても、働いている人が許容しているため問題になりにくく、その逆もしかりというわけです。例えば飲食店で普通の残業時間のはずが、メーカーでは問題になる、ということも容易におこりえます。

次に賃金です。賃金の水準も残業許容度に大きな影響を与えます。残業代をしっかり支払うのは当然のことですが、基本給水準や賞与が高ければ、一般的にある程度残業許容度は高くなります。

三つ目に休日です。よく残業時間は年間や月次の残業時間だけがクローズアップされますが、定期的にしっかり休暇をとれるかどうかも大事なポイントになってきます。もちろん休暇をとりやすければ、残業許容度は高くなります。

最後は職場環境です。仕事が厳しかったり、上司の要求水準が高かったりすれば、短い残業時間でも大変に感じますので、残業許容度はさがりますし、その逆もしかりです。
様々な残業許容度を考える尺度がありますが、人々はこれらをもとに各々の残業許容度を暗黙のうちに設定しています。

企業からすれば、絶対に誰にもブラック企業と思われないようにするためには残業ゼロにするしかありませんが、それが難しい場合、まずは法令は絶対順守し、この四点の観点から質が劣後しないようにすることでブラック企業と見られるリスクを下げることができます。

 

最後に

 

今回は一般的な認知はありながら、なかなかその基準や尺度が見えにくい、ブラック企業と残業時間の関係性についてご紹介しました。まず今後施行される年間720時間なども含めた法令を守れていない企業はブラック企業とみて問題ないでしょう。

一方それよりしたの部分については業種や待遇など、他の要素により様々なものになります。もちろん残業がなければ少なくとも労働時間の観点からはブラックではないと言ってよいです。
企業については法令を絶対順守しつつ、自らの企業の環境で許容される残業時間をしっかり見極めることで、ブラック企業だと思われることを避けることが肝要です。また労働者は自分が許容できる労働時間を考えて企業を選び、働くことで過労により不利益を被るリスク、自身が勤めた会社を「ブラック」だとおもうリスクを低減できます。